「みんなの衛研」タイトル
(第10号 平成7年12月)

第10号の発刊をむかえて

所 長  木 村  浩 男

   道立衛生研究所の広報誌「みんなの衛研」は、平成3年春に第1号が出されてから年に二回のペースで発行を重ね、本誌がちようど第10号になりました。
   ご存じかと思いますが、衛生研究所は公衆衛生の向上を図るため、科学的、技術的な面から保健衛生行政を支える試験研究機関として各都道府県や大きな都市に設置されており、全国で73か所を数えます。また、その業務としては、種々の試験検査、公衆衛生情報の解析、関係者の研修指導などのほか、様々な調査や研究が行われております。
衛生研究所の全景  当所では、エイズなどの感染症や本道の風土病であるエキノコックス症に関する検査、研究をはじめ、食中毒の防止や食品の安全性についての研究、農薬や化学物質などによる環境の汚染、飲料水の安全性や環境放射能の調査など、内容は多岐lこわたっています。現在、疫学部、食品科学部など四部一室の各科に所属する総勢七十余名の研究職員が日夜こうした業務lこ取り組んでおり、これまでにも数々の業績を残しております。特lこ遺伝子工学の手法を導入したボツリヌス菌の研究では、昨年特許の申請を行うなど、先端的な生物工学の分野の研究にもカを入れています。また、今後は高齢化時代の地域保健に関しても、保健所等と連携して、幅広い調査研究や研修を実施することが求められています。ともあれ、衛生研究所の業務は、何分にも地味でどちらかと言えば縁の下のカ持ちの様な仕事が多いためか、一般の方々Iこ十分理解していただくのはなかなか難しいのが現状です。それだけに、私達としては、よりわかりやすく面白い「みんなの衛研」を皆様にお送りし、一人でも多くの方に読んでいただけるようlこしたいと思っています。これからも一層のご理解とご協カをお願いいたします。



当所研究職員に知事表彰

「ボツリヌス中毒発生時の遺伝子診断法の開発」に対して

 本年11月14日に開催された北海道職員表彰式において、当所の大山徹生物工学室長、砂川紘之食品科学部主任研究員、武士甲一食品微生物科長の3名が、知事から表彰状を授与されました。表彰の対象となったのは、「遺伝子工学導入調査研究」の一環として実施してきた「ボツリヌス中毒発生時の遺伝子診断法の開発」です。
 これは、極めて致死性の高いボツリヌス菌による食中毒発生時Iこ、従来7日から10日間要しなければ正確な結果が出なかった診断を、菌の毒素遺伝子を特定することにより、試料入手後約5時間で可能としたものです。この診断法については、北海道職員の職務発明にも認定され(特許申請中)、すでに本年の食中毒発生時の確定診断にも応用されており、ボツリヌス中毒への迅速な対応に大きく寄与できるものです。

知事表彰受賞者



多発するアニサキス症

一原因と予防一

  アニサキス症は、魚介類に寄生しているアニサキスという寄生虫の幼虫を、人が生食したときに、幼虫が人の胃壁や腸壁に穿入して激しい腹痛を起こす病気てす。魚を生で食べる習慣のあるわが国では、特に症例が多く、現在最も重要な寄生虫性疾患の一つとなっています。
  アニサキスにはいくつかの種類がありますが、アニサキス症の原因となるのは、ほとんどが、ア二サキス・シンプレックス(以下、アニサキス)と、シユードテラノーバ・テシピエンス(以下、テラノーバ)の2種です。どちらも体長2〜3cmの線虫で、アニサキスの方がやや小さく、白色半透明で、魚の体内で渦巻状をしています。これに対してテラノーバは茶色っぽく、一般には渦巷状にならないなどの特徴があります。アニサキス症の原因虫
 下の表に示すように、どちらも非常に多くの魚種に寄生しており、特に、タラ、サケ、マス、サバ、スルメイカには注意が必要です。
  当所には、主に札幌近郊の病院で摘出されたアニサキス類の幼虫が、種類同定のため持ち込まれますが、その数は年間50〜60件に達しています。このうち、1991〜]994年度に同定した数を見ると、アニサキスの検体は秋に多く、春に向かって減少していくのに対し、テラノーパはほぼ逆の傾向を示しました。この変化は、寄生している魚種の漁獲期と関連している可能性がありますが、詳しいことはまだわかりません。
  アニサキス症が多発していることの原因の一つに、冷蔵技術の発達で新鮮な魚介類が大量に市場に流通するようになったことがあげられます。魚が新鮮ということは、その中の寄生虫も新鮮ということです。また、ひと頃のグルメブームの影響で「何でも生で食べるのが一番」と考える風潮があることも無視できません。以前は漁村でなければ生で食べられなかった魚が、都会でも鮮魚として売られるようになり、アニサキスの知識のない人が簡単Iこ刺し身にして食べることができるようになって、この寄生虫症も増えてきたのではないかと考えられるのです。
  この寄生虫は、冷蔵庫程度の低温では長い時間生きており、また通常用いる程度のわさびや酢、醤油では死にません。ただし、加熱するか、−20℃以下の低温で5〜6時間冷凍すれば死んでしまいます。サケをルイベで食べるという習慣は、単に保存や食感のためだけでなく、アニサキス症を予防する上でも意味のあることなのです。
  アニサキス症を予防するには、生魚を食べないのが一番ですが、北海道で刺身をまったく食べないというのももったいない話です。この虫が寄生している可能性のある魚介類を生で食べるときは、十分注意して調理しましよう。万が一、生魚を食べて数時間後Iこ激しい腹痛が起きたときは、この病気を疑って、内視鏡検査を受けてみることも必要です。

(疫学部・医動物科 浦口 宏二)

寄 生 虫 名

寄 生 し て い る 魚 種

アニサキス シンプレツクス

タラ・サケ・マス・イカ・サバ・サンマ・ニシン・イワシ・
カレイ・ヒラメ・アイナメ・アジ・アンコウ・タチウオ・
カサゴ・二シキギンボ・ホウボウ・カツオ・アカマンボウ等

シユードテラノーパ・デシピエンス

タラ・オヒョウ・アンコウ・イカ・ホツケ・イワシ・カレイ・
メヌケ・キユウリウオ・チカ・ハタハタ等

 



温泉の保健・医療面への活用について


 北海道は温泉国といわれるわが国の中でも、豊富な温泉・地熱資源に恵まれています。そしてこれらの温泉は、本道の豊かな自然環境と相まって観光資源としてはもとより、広く道民の保養やレクリエ一ション等に大きく寄与しています。
 特に近年は、人口の高齢化、余暇の増大、健康志向の高まり等とともに、疾病構造の変化も認められることから、温泉の本質である潜在的な効果を疾病治療のみならず健康増進の分野においても、積極的に活用しようとする試みがなされつつあります。しかしながら、それらに対する温泉の活用度はいまだ低く、また、すべての療法の効果が科学的に明らかにされているわけではありません。
 イタリアの飲泉場昨年度、温泉の医療面への有効利用を積極的に推進しているドイツを始めヨーロッパ諸国を訪問する機会を得、その研究の歴史的背景と現状、および実践と成果等について多くの情報を得ることが出来ました。
  ヨーロツパにおける温泉療法の効果は、温泉浴や飲泉のほか、温熱・物理療法、運動・食事療法、温泉地の環境等の影響が総合して現れるものであり、わが国で従来から実施されている湯治とは大きな違いがあります。特にドイツやイタリアでは温泉を単なる治療手段として利用するのみならず、健康の維持・増進のために積極的に利用しようとする考えが施設やシステムによく示されています。さらに健康増進面では運動不足に起因する様々な疾病を対象とした体カ作りを目的に、屋外でのライフスポ一ツや森林・山・谷間などの自然環境を利用した運動(地形療法)のできる施設が温泉療養地の周辺に整備されています。これらの自然療法は美しい自然の中でゆったりと楽しみながら行うことを基本としており、慢性疾患やリハビリテーシ∃ン、さらには予防医学(対成人病やストレス性疾患等)の面への顕著な効果が高く評価されています。
 当所では温泉法に基づいて道内の温泉水の成分分析を行い、その化学成分特10-32.gif (16321 バイト)性、利用上の安全性、湧出状況の変化の有無等を明らかにし、温泉の保護と適正利用をはかり、道民の健康維持・増進への有効活用法を検討しています。現在、本道の温泉の医療への利用状況およびその効果についての実態を把握するため、道内約30の温泉地にて、12項目からなるアンケート調査を進めています。 今後、特定の疾患(特にアレルギー性疾患)に著しい効果が認められた温泉については、専門医等の協力を得て、それらの患者についての臨床免疫学的な調査も計画しています。そして、それらの成果が道民の保健・医療面に有効に利用されることを大いlこ期待しています。

(生活科学部・温泉保健科長内野栄治)

 


北海道の薬用植物I

オタネニンジン(ウコギ科)

  朝鮮半島北部から中国東北部、シベリアにかけて自生する多年草で、古くから薬用として珍重されています。現在はほとんどが栽培品ですが、栽培は非常lこ難しく、簾などの日覆いが必要です。新陳代謝機能の増進、内分泌の促進、中枢神経系の興奪など多くの薬効が知られています。網走市で栽培されています。

 生 薬 名:人参(にんじん)、薬用人参  薬用部位:根

 最近、道内でトウキの一種(セリ科、写真右)がオタネニンジンとして出回つていますので、間違わないよう注意が必要です。

        オタネニンジン                 トウキの一種

               (薬理毒性部・薬用資源科長姉帯正樹)


衛研全国協議会長表彰の受賞

 本年10月29日に開催された、地方衛生研究所全国協議会総会において、当所疫学部の沢田春美ウイルス科長が、同協議会長表彰を受けました。この表彰は、全国lこ73か所設置されている、地方の衛生研究所lこ勤務している多くの職員の中から、他の模範となる優れた業績をあげた者lこついて、その業績をたたえ授与されるものです。沢田科長は、長年にわたり各種ウイルス感染症の研究に従事し表彰式の写真てきましたが、「風疹」についての妊婦の感染の実態、地域における流行状況およびワクチンの影響等について明らかにし、また分子生物学的方法を応用してウイルス性結膜炎の原因ウイルスの疫学的特性を明らかにしたほか、特に最近では3種混合MMRワクチン(麻疹、流行性耳下腺炎、風疹)を接種した妹から感染したと考えられる姉から、流行性耳下腺炎のワクチン株を分離し、従来のMMRワクチンの問題点を明らかにしてきました。これらは、北海道のウイルス感染症予防にも大きく貢献をしており、今回受賞の対象とされたものです。



 

プラザ展」と「おもしろ祭り」を開催

 本年度の当所の所外広報活動として二つの展示会を開きました。一つは当所の主催で7月に「’95衛研道民プラザ展」を、もう一つは他の道立試験研究機関と共催で9月に「’95試験研究機関おもしろ祭り」を開催したものです。どちらの展示会も、当所の日頃の研究成果を広く道民のみなさんに知ってもらおうと、各研究職員は研究の合間を縫って、各テーマ毎にパネルなど工夫を凝らした展示物を作成しま道民プラザ会場風景した。主なテーマを紹介すると、「輸入感染症」、「エイズ」、「エキノコックス」、「食品添加物」、「貝毒」、「北海道産生薬」、「日常の放射能」、「遺伝子組換え」などいずれもわたしたちの日常生活Iこ関連の深いものばかりで、会場を訪れた多くの見学者の関心を誘いました。

                                          


〒060札幌市北区北19条西12T目 

北海道立衛生研究所広報誌編集委員会

                        (委員長 金田利男)

        TEL 011-747-2211(内線233)

        FAX 011-736-9476



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