生物科学部衛生動物科所属 伊東拓也

異物混入への対応
 食事の時、食べ物に「わ!虫が入っている」と箸を投げ出したり、口に入れたときに「なんだこれ?」と違和感を覚えてはき出した経験をお持ちの方も少なくないと思います。そんなときは、「食べても大丈夫なのかな?」とか、「知らずに食べてしまったかも?」と不安に駆られ、せっかくの楽しい食事が台無しになってしまいます。そして、それがハエなどの虫だとわかれば食品ごと捨て、買ってきた物や外食時であれば担当者にクレームを入れることになるでしょう。
 逆に、それが原材料の一部だったりごはんのお焦げなど調理過程で生じた物だとわかれば、安心して食事を続けることができます。では、わからなければ・・・?
 本来その食品に入っていてはいけない物を、異物と呼んでいます。異物の混入は食品衛生法違反となり、さらにその異物が人の健康を損なうものであれば罰則の対象になります。 
 ですから、品質管理や製品検査などの異物対策は、食品産業にとって重要な業務になっています。一方、食への安全意識の高まりから、消費者は異物混入に対してより正確な情報提供と的確な対応を求めるようになってきています。
 私が子供の頃に耳にした「え、うちで売った食品にワラジムシが入ってた?そんなのよけて食べれば大丈夫だ」などの対応は、今は通用しません。

異物の種類
 消費者対応を含めた異物対策を行う上で最初にしなくてはならないのが、その異物が何であるのかを特定すること(同定と言います)です。異物の種類は、虫、毛、金属片、小石など多岐にわたります。
 私の所属する衛生動物科では、これら異物のうち動物性の異物について同定試験を行っており、ここ数年は年間100件ほどの依頼があります。扱った異物は、昆虫類が全体の80%を占め、昆虫以外の動物、動物の毛や骨、植物がそれぞれ5%前後でした。
 昆虫の中では、チョウやガの仲間(鱗翅目)が約40%、ハエやカの仲間(双翅目)と甲虫類(鞘翅目)がそれぞれ20%ほどでした。
 企業や保健所で同定できた異物は当所に持ち込まれませんので、これらの結果が動物性異物の実情をそのまま反映しているとは言えませんが、それにしても虫の混入が意外に多いと思いませんか

ノシメマダラメイガという厄介もの
 昆虫類の中でもトップに立つのは、ノシメマダラメイガというガです。動物性異物は、その動物の生息環境や生態などの情報から、発生場所の特定や防除方法の選択ができることが期待できます。
 ノシメマダラメイガの場合、幼虫はナッツ類やクッキーなどのお菓子類が大好きですが、成虫は何も食べずに産卵します。従って、幼虫の餌さえあれば、工場や一般家庭などいろいろな場所で繁殖し続けることができます。
 幼虫は包装に空いた小さな穴からも侵入しますし、成虫は夜行性ですから、どこからともなく侵入して、いつの間にか大量発生することにもなりかねません。製造から流通・販売・消費に至る過程のいずれにおいても混入する可能性があるやっかいな虫です。幼虫は黄白色で2センチほどに達し、食べかすや糞を糸でつづり合わせて粗雑な巣を作っています。成虫は1センチほど(図参照)で、昼間は天井の隅などに止まっていて、家族が寝静まると部屋の中を飛び回ります。ほかのガと違って、照明に集まってバタバタ羽ばたくことはしません。
 もしこのガを見つけたときは、米・粉・菓子類などを点検し、発生が認められた食品は廃棄し、被害を免れた物は密閉できるプラスチック容器等に移します。食器棚の奥で忘れられていたチョコレートが発生源だったこともあるので、念入りに点検しましょう。
 購入した食品から見つかった場合は販売元に連絡するのはもちろんですが、念のため他の食品も点検した方が良いでしょう。
 ノシメマダラメイガのように貯蔵食品に発生する虫は、ほかにタバコシバンムシ、ノコギリヒラタムシなど多数ありますが、これら発生源となる食品の管理を徹底することで防除することができます。幸いなことに、これらの虫たちは、幼虫・成虫ともに毒を持っていたり人を刺したりすることがないので、誤って少々食べてしまっても健康に悪影響はありません。

ノシメマダラメイガの成虫
ノシメマガラメイガの成虫

健康を害する恐れも

 衛生害虫として名高いハエの幼虫やゴキブリの仲間が混入した例にも、少ないながら遭遇しています。これらは食中毒の原因菌に汚染されている可能性がある虫たちなので、食べると健康を害する恐れがあります。
 また、菓子にネズミの毛が混じっていたこともありました。この例は、製造工程の少なくとも一部にネズミが出て、しかも、死んで製品に混入するような不衛生な環境があることを示しています。
 サラダの中のある野菜にヨトウガの卵塊が付いていて、それが孵化してサラダが幼虫だらけという例もありました。
 これは、原料のチェックが甘く、卵塊を見逃したことが原因だと考えられます。この場合、品質管理者は「この野菜には、ヨトウガの卵が付いている可能性があるので、特に×月と△月には葉の裏を注意深く点検し、卵塊を見つけたら除去すること」と自社製造部門を指導しなければいけません。
 これに対して、ガの種類も同定せずに「野菜に虫が付いているのが原因だから、すべての野菜生産者に農薬使用量を増やすよう指導すべき」と他者の責任として済ませてしまうのでは、消費者の信頼は得られません。

異物対応と企業体質

 これらの例のように、食品混入異物は製品の品質管理や衛生管理の状況を反映することが多いので、消費者にとっては、異物への対応の仕方が企業体質そのものであると写るのは当然のことといえます。製造者はこのことを肝に銘じて、消費者対応を行う必要があります。
 逆に、不幸にして異物混入食品を買ってしまった消費者は、製品の交換等いわゆる「お詫び」対応で済ませるのもかまいませんが、製品管理者やお客様相談窓口担当者から再発防止策を含めた説明を充分納得いくまで受けることも大切です。もし納得できない場合は、消費者センターや保健所の食品衛生担当者が相談に応じてくれますので、できれば混入していた異物と製品を持って、相談してみるのが良いでしょう。
 北海道は日本の食料基地であり、質の高い農水産物や加工品の供給で確固たるブランドイメージを築いています。しかしながら、ともすると「異物がどこで入ったか」のみが重視され、生産、加工・製造、流通、販売業者間の責任のなすりつけあいと、その場限りの対応に終始しがちです。
 先人たちが築き上げてきた北海道ブランドを道民が一丸となって守り育てていくためにも、食品業界・行政・研究開発機関が連携して異物情報の解析や対策にあたっていくことが、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。

伊東 拓也(いとう たくや)
1986年衛生研究所に配属後、貝毒・エキノコックス・ライム病・ダニ媒介性脳炎などの調査・研究に携わる。専門は昆虫学。現在は、蚊やマダニなど疾病媒介性節足動物やドクガなどの衛生害虫の分類や生態の解明に取り組んでいる。