北海道立衛生研究所食品薬品部食品保健科研究職員 藤本啓

 近年、道内各地で野生化した大麻草の乱用を目的とした不正採取が問題となっています。一般的に大麻草と称されるアサ(Cannavis sativa L.)は、雌雄異株のアサ科の一年草で、丈の大きいものは約3メートルにもなります(写真1)。ここでは、大麻成分とその有害性、北海道における栽培の歴史、有効利用例と最近の動向等について簡単に紹介します。

写真1 大麻草(アサ)

大麻の成分と有害性について
 大麻草の茎葉等を乾燥したものは「大麻」と称され、麻酔性の強い「薬物型(THCA種)」と麻酔性がほとんどないか、あっても少ない「繊維型(CBDA種)」のものに大別されます。大麻からは400種以上の化学物質が単離されています。この中で大麻に特異的な「カンナビノイド」と呼ばれる化合物群が約60種類あり、THC(テトラヒドロカンナビノール)、CBD(カンナビジオール)そしてCBN(カンナビノール)と呼ばれるものが主な成分として知られています。その中で、「デルタナインTHC」が幻覚作用の本体といわれています。大麻は生植物中においては、前述のTHCとCBDを各々カルボン酸体(A)という型で含有しており、採取後は物理化学的変化により脱炭酸を受け、THC、CBDとなります。
 THCは吸煙による2-3rの摂取では陶酔感を憶え、多量になると判断力、思考力が障害され幻覚が起きる場合があります。さらに大量では意識障害を伴う精神病様の症状を呈する事があり、慢性中毒に陥ると判断力、記憶、集中力が低下し無感動、無気力となります。動物実験ではTHCの大量連続投与によりラットに著しい攻撃行動を起こし、マウスに対して「ムリサイド」と呼ばれる「かみ殺し行動」の発現があることから、その乱用は恐ろしいと言えます。また大麻は、覚せい剤等のよりハードな乱用薬物へのゲートウェイドラッグ(入門薬物)としても問題視されています。
 北海道では毎年6月から9月の間に保健所等が集中的に野生化した大麻草の抜き取り作業を行っており、平成15年度には約147万本の抜き取りが行われました。この数は全国の抜き取り総数の約8割を占める量である事から、本道ではいかに野生の大麻草が問題となっているかがわかります。我が国で野生化している大麻草は南方系産に比べ、THC含量が少ないと言われています。しかし、過去に当所で実施した調査の結果、道内に野生する大麻中のTHC含量は0.1-1.6%であり、世界各地の大麻と比べてTHC含量に遜色はなく、道内の野生大麻も不正使用の対象となり得る事が明らかとなっています。

栽培の歴史
 大麻草は世界で最も古い繊維作物とも言われ、本道においてもかつてはその繊維(アサ)を採る目的で盛んに栽培されていました。明治20年(1887年)、北海道製麻会社(後に日本製麻と合併し帝國繊維となる)が創立され、繊維作物として「アマ」(亜麻、アマ科)の栽培と繊維生産が奨励されました。大麻草も同じ用途で、道内各地で栽培されていました。
 本道における大麻草栽培の史実としては、明治の頃札幌農学校における南(池田)鷹次郎の実験実習報告書があり、大麻草と亜麻の栽培実習が正式な教課内容であったとの記録が残っています。ちなみに、大麻草に類似した靭皮繊維を採る植物及びその繊維の総称名を広義の意味で「アサ」と呼んでいますが、アサ(大麻草)とアマ(アマ科)は植物学的にも別種の植物です。また、物資の不足した第二次大戦中には種子の斡旋や栽培が奨励され、その栽培法等が記された昭和16年発行の技術資料も残っています(写真2:元北海道農業改良普及所長姉帯文博氏所蔵)。しかし、戦後における需要の減少や昭和23年に「大麻取締法」が施行されたため、大麻草の栽培は衰退していきました。江別市の大麻(おおあさ)のように麻畑の名残りとされる地名が各所に見られる事から、北海道と大麻草については、昔から深い関わりがあると言えます。

写真2 大麻栽培法等の技術資料


有効利用例と最近の動向
 大麻草はその茎が繊維として利用されるだけでなく、種子は生薬の麻子仁(ましにん)(緩下剤)、七味唐辛子や小鳥用の飼料として用いられています。全草から得られる成分は、欧米では抗がん剤投与時の吐気を抑える制吐剤として用いられるなど、有効的に用いられる面も多々あります。
 現在、我が国では、しめ縄等神事用として用いるため、栃木県で「とちぎしろ」というTHCをほとんど含有しない繊維型の品種が栽培されています。しかし、繊維型は在来種と交配すると麻酔性の強いTHC(A)が増加する性質を有しているため、栃木県保健環境センターでは無毒大麻試験として、栃木県内で栽培されている大麻草の交雑状況を調査し、繊維型としての品質の保持に努めています。
 最近、本道においても道東方面で、大麻草を有効に利用し、事業化するための研究会が発足しており、今後栽培が行われそうな状況にあります。前述のとおり、本道は在来種が各地で自生(野生化)している事から、その際には繊維型としての品質保持の対策を講じていかなければならないでしょう。
このように大麻草について、本道との関わりと各々の側面等について簡単に紹介しました。善悪いずれにも用いられる大麻草ですが、言うまでもなくTHC含量の多少に関わらず、全ての大麻草についての無許可の栽培、不正所持、不正使用等は厳しく処罰の対象となります。
 なお、大麻草については、九州保健福祉大学山本郁男教授の論文、著書が多数あります。

(参考資料)
1.井上堯子、現代化学1999年9月号
2.平成15年度北海道保健福祉部医務薬務課医務薬務行政概要、平成17年3月
3.北海道大百科事典上巻、北海道新聞社編、昭和56年7月
4.北陸大学紀要第15号、P15、1991年
5北海道新聞 平成16年3月3日付

藤本啓(ふじもととおる)氏
札幌市出身。東日本学園大学(現北海道医療大学)薬学部卒業。薬剤師。名古屋市立大学大学院薬学研究科博士後期課程修了(生薬学)。薬学博士。同大研究員を経て平成5年から北海道立衛生研究所薬学部薬品化学科において医薬品の検査や天然物の研究に従事。本年4月から現職。