食物アレルギーについて
北海道立衛生研究所食品薬品部薬品保健科長 林隆章

アレルギーとは
 アレルギーにはいろいろな型があります。よく耳にする花粉症やアレルギー性鼻炎、気管支喘息などは、症状が急激にあらわれるアレルギーとしてよく知られていますが、その症状は、鼻や気管支などの部位に限定されています。
 薬物アレルギーもよく耳にします。病院に行くと必ず「お薬で具合が悪くなったことはありませんか」と聞かれます。薬物アレルギーの症状のほとんどが薬疹とよばれる発疹ですが、まれにアナフィラキシーと呼ばれる呼吸困難や血圧低下などの全身的な反応が引き起こされ、生命を脅かすショック状態に陥ることもあります(アナフィラキシーショック)。
 ハチに刺された場合も、ハチ毒アレルギーの人は、アナフィラキシーショックを起こすことがあります。これらのアレルギー症状は、アレルギーの原因となる物質 (アレルゲン:多くはタンパク質です) に対する抗体を持っている人の身体にアレルゲンが入った時に過剰な免疫反応としてあらわれます。
 食物アレルギーも同様に、食べ物に含まれるアレルゲンが過剰な免疫反応を誘導し、じんま疹などの皮膚症状、下痢・嘔吐・腹痛などの消化器症状、咳や呼吸の乱れなどの呼吸器症状を起こします。まれにアナフィラキシーショックを起こし、死にいたる場合もあります。
 昨年11月にカナダで、重度のピーナッツアレルギーをもつ15歳の少女が、ボーイフレンドとのキスの後にアナフィラキシーショックを起こし、数日後に死亡するという事件がありました。報道によると、ボーイフレンドはキスする前にピーナッツバターを食べていたとのことです。キスで食物アレルギーが起こるとは予想外のことでした。
 アメリカでは、およそ1〜1.5%の人がピーナッツアレルギーをもっていると推定されています。さらに、極微量のピーナッツに触れただけでも重度のアレルギー反応を起こす人がおよそ150万人もおり、毎年50〜100人がピーナッツアレルギーで死亡しています。
 日本でも、最近、特定の食物が原因となってアレルギー症状を起こす人が増えてきました。

アレルギー原因食品
 食物アレルギーで最も多い原因食品は鶏卵で、ついで牛乳、小麦です。この3つの食品で食物アレルギー全体の約6割を占め、三大アレルギー原因食品といわれます。
 鶏卵によるアレルギーは小児期、とくに乳児期に発症数が多く、年齢を重ねるごとに低下します。鶏卵のアレルゲンは主に卵白に存在します。卵白には40種類以上のタンパク質が含まれていますが、それらのタンパク質の54%はオボアルブミン、11%はオポムコイド、3.4%はリゾチームで構成され、これらが鶏卵の主たるアレルゲンです。
 牛乳(乳製品) によるアレルギーも小児期に発症数が多く、年齢を重ねるごとに低下します。牛乳にはタンパク質が3〜3.5%含まれ、そのタンパク質の75〜85%を占めるカゼイン、約10%を占めるラクトグロブリンが主たるアレルゲンと考えられています。薬剤の中にはカゼインを含むもの (抗生物質製剤「メイアクト小児用細粒」など) があるので、病院では問診によりアレルギー歴を確認していますが、牛乳アレルギーの方はそれを確実に主治医に伝えるようにすることが必要です。
 小麦によるアレルギーは、同様に小児期に多いのですが、全年齢で発症がみられます。小麦の主要アレルゲンはグリアディンで、食物依存性運動誘発アレルギーを引き起こすアレルゲンとしても注目されています。このアレルギーは、特定の食物を摂取した後に運動するとアナフィラキシーが誘発される疾患です。
 これらの原因食品以外にもアレルギーを引き起こす食品が知られています。そば、ピーナッツ (落花生)等は、卵、牛乳、小麦に比べるとアレルギーの頻度は高くないものの、アナフィラキシーを起こすことがあり充分な注意が必要です。この他にも大豆、魚類、肉類、甲殻類(エビ、カニ等)、野菜、果物等も食物アレルギーの原因となります。

アレルギー原因食品の表示
 近年、食物アレルギーを起こす人が増加していることに対し、食品衛生法に基づく表示のルールが改正され、平成14年4月からアレルギーを誘発するタンパク質を含む加工食品にはそれを表示することとなりました (注)。必ず表示されなくてはならないものは、卵、牛乳、小麦、そば、落花生の5品目で、「特定原材料」といいます。表示が勧められているアレルギー原因食品は、あわび、いか、いくら、えび、オレンジ、かに、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、山芋、りんご、バナナ、ゼラチンの20品目で、「特定原材料に準ずるもの」といいます。これらのアレルギー原因食品は、あらかじめ袋や箱で包装された加工食品や、缶・瓶詰めの加工食品の原材料名の欄に、卵、小麦粉、落花生、大豆油などと表示されています。
 なお、店頭で量り売りされるそう菜やバラ売りのパン、注文を受けてから作るお弁当、容器包装の面積が30cm2以下の小さなものにはアレルギー原因食品は表示されないことがあるので注意が必要です。また、明らかにアレルギー原因食品を含むことが分かる場合は、原因食品の表示は省略されることがあるので注意が必要です (マヨネーズは卵を使って製造するので「卵を含む」との表示は省略されることもあります)。一方、特定原材料を使用していないことを表示することもできます。たとえば、一般に「ケーキ」は「小麦粉(特定原材料)」を使用していますが、小麦粉を使用しないでケーキを製造し、実際に小麦粉の混入がない場合には、「本品は小麦(粉)を使用していません」と表示することができます。
 以上、説明してきた表示法は、アレルギー疾患を有する方の食品選択に非常に有効な方法で、今後、さらに分かりやすく確実な表示となることが期待されます。

道立衛生研究所での取り組み
 厚生労働省では、アレルギー原因食品の表示に係わる違反事例として、平成15年2月〜平成16年6月までに82件の事例を発表しています。それらの多くは製造者、または販売者の自主検査によるものですが、購入者がアレルギー症状を呈したことから判明したものもあります。それらの加工食品は、製造者、または販売者により自主回収および表示改善が行われました。道では平成16年度から特定原材料(卵、牛乳、小麦、そば、落花生) の表示がされていない加工食品にそれらが含まれていないかを検査しています。衛生研究所において原因となるタンパク質を検出・定量するエライザ法、ウエスタンプロット法、および原因食品由来のDNAを検出するPCR法を実施しています。まず最初にエライザ法で試験し、陽性を示したものについては、保健所で製造所の製造記録、工程等を調査します。使用を確認できた場合には、特定原材料を含む旨の表示が必要です。製造記録等に使用の記載がない場合には、当所で確認試験(ウエスタンプロット法、PCR法)を行います。ここで陽性を示した場合にも、特定原材料を含む旨の表示が必要です。
 当所では、昨年度と今年度に約70検体の加工食品の検査を行いました。その結果、2件の表示違反が判明しました。今後さらに検査対象を広げ、アレルギー原因食品が含まれる場合に適切に表示されるように、そしてアレルギー疾患を有する方が安心して食品を選択できるように努力していく必要があります。

※注…食物アレルギー物質を含む食品の表示に関して、詳しくは厚生労働省のホームページ (http://www.mhlw.go.jp/index.html) でご確認ください。

林 隆章(はやし たかあき)氏
1978年北海道大学薬学部卒業。生体内酸化的障害に関する研究に取り組んでおり、酸化的ストレスにより有害な中間物質が生成する機構および生体に対する影響について研究している。また、食物アレルギー試験、健康食品に含まれる有害物質の試験などのヒトの健康に係わる化合物の試験に携わっている。