冬に向けての運動の提案「ノルディック・ウオーキングのすすめ」
北海道立衛生研究所健康科学部健康増進科 研究職員 西村一彦


 「肥満とは脂肪組織が過剰に蓄積した状態」で、体脂肪率が男性で25%以上、女性で30%以上になると肥満となります。
 また肥満のうち特に生活習慣病の原因とされる内臓脂肪型肥満の判定は、ウェスト(へそ周囲)が男性で85センチ以上、女性で90センチ以上を1つの目安として判定しています。

エネルギー消費量と運動
 内臓脂肪は、皮下脂肪よりも分解しやすいことが知られており、適正な食生活や運動により管理することが容易であるとも言われています。身体は何もしていない状態でも、内臓の活動や体温の維持など生命を維持するためにエネルギーを消費しています。この消費エネルギーのことを「基礎代謝量」といいます。
 例えば38歳で体重65kgの男性では、1日の基礎代謝量は約1500キロカロリーとなります。この男性が平均的な摂取エネルギー量である2200キロカロリーを食事から摂取し、デスクワーク中心の仕事で400キロカロリー程度のエネルギーを消費していると考えますと約300キロカロリーが余分なエネルギーということになります。この300キロカロリーを運動で消費しないと約40gの体脂肪が蓄積される計算になります。
 消費されるエネルギーのうち、基礎代謝量が約70%、運動が15%程度と言われています。一見運動による効果は少ないように見えますが、基礎代謝量の約40%が筋肉の働きによるものであり、筋肉を維持、増加することにより基礎代謝量が維持、増進されます。ですから運動には、エネルギー消費という直接的な働きの他に、筋肉の維持や増進という複合的な作用もあります。これらのことから運動は肥満の予防・改善に必要不可欠であると考えられます。

運動習慣の現状
  厚生労働省は「平成15年度国民健康・栄養調査報告書」の中で、定期的な運動習慣が無い人が全体の6割強を占めると報告しています。また、生活習慣病を予防する為の運動指針「エクササイズガイド2006」では、定期的な運動習慣の無い人でも掃除や階段の上り下りなどの日常生活の中で運動を意識するようにとの方針を打ち出したところです。
 ところで、私たちが運動を頭に描いた時、誰でも気軽に出来るのはウォーキングではないでしょうか?当衛生研究所が平成15年度〜16年度に北海道保健福祉部、保健所、市町村と協同で行った「すこやか北海道2 1推進事業-肥満対策事業-」でのアンケート結果でもウォーキングを行っているとの回答が多く寄せられました。しかし、非肥満者は夏季と冬季での歩数に差がなかったのに対し肥満者では冬季に歩数が減少する傾向が認められるなど、冬季の運動不足と体重増加の関連がありそうです。冬季に運動量が減少する理由として、雪や凍結路面などによる転倒への不安などから外出を控えることが考えられます。また、冬季のスポーツは、運動施設にわざわざ出かけて行うものが多く、気軽に毎日行うことが難しいこともその理由の一つと考えられます。

ノルディック・ウォーキングの提案
 そこで、北海道健康増進計画「すこやか北海道21」改訂版では、冬季でも気軽に楽しく実践できる健康運動として「ノルディック・ウォーキング」を推進しています。フィンランド発祥のノルディック・ウォーキングは、クロスカントリースキーの夏季のトレーニングとして考案されたスポーツであり、両手にストックを持ち歩くことから、「ポールウォーキング」や「ストックウォーキング」などの名で呼ばれることもあります。北欧では、通勤や通学など日常生活の一部として利用されています。
 ノルディック・ウォーキングの健康効果としては、通常のウォーキングと比べ、ストックによる腕の力も推進に用いることから、体全体の主な筋肉を使うスポーツであり、その消費エネルギーが20%から最大40%程度増加するといわれています。また、ストックを用いて背中から首にかけての筋肉を動かすことで肩こり等の解消や予防にも役立ちます。加えて悪路や凍結路面などを歩く際の転倒防止にも役立つことから年齢・季節を問わず誰でも気軽に楽しみながら健康増進を図ることが出来る新たなスポーツとして注目されています。

ノルディック・ウォーキングの実践
 ノルディック・ウォーキングを始めるに当たり、必要な用具にストックがあります。専用の物も販売されていますが、スキーや登山用のストックでも代用可能です。舗装路面や穴を空けることを禁止している場所では、ゴムのキャップ(パウ)をつけるようにして下さい。長さは身長の約70%が目安となり、用いるストックの長さにより運動の強度も変わってきます。持ち運びに便利な長さを調節できるストックなどが便利でしょう。靴は、ウォーキングシューズやスノートレッキングシューズが最善です。しかし、ハイヒールやサンダルなどでなければ、履き慣れた普通の靴でも構いません。同様に服装も通気性と保湿性を兼ね備えたものが適していますが、通勤・買い物に行くときの服装でも構いません。ただ女性の場合、スカートは避けた方がよいでしょう。また、両手にストックを持ちますので怪我の防止のために手袋をつけ、荷物はリュックサックやウエストポーチなどに入れ持ち歩くようにしましょう。
 はじめは、ストックに慣れるために、ストックをひきずったまま普通に歩きます(図1)。自然に腕が振れるようになったら、ストックを軽く握り、地面に突き始めてください。 慣れてきましたら、ストックを前足の中間に突き、そのまま手が腰を通過するまでしっかり力をかけて、体を前方に押し出すようにしましょう(図2)。重心を低く、ストライドを大きくすることでより強い運動効果を得ることが出来ます。


 先の例であげた、余分な300キロカロリーをウォーキングで消費するには10000歩ほど歩く必要があると言われています。ノルディック・ウォーキングなら6000〜8000歩で同様のエネルギーを消費することができます。短い時間でも効率よくエネルギーを消費できることから通勤・通学、買い物、散歩など日常生活に取り入れることで気軽に健康運動効果を得ることが可能となります。
 衛生研究所、北海道保健福祉部、保健所、市町村と協同で平成17年度に行った道民の健康づくり推進事業「北のくにを応援する新たな健康運動のすすめ」では、当所職員4名を含む67名のノルディック・ウォーキング普及サポーターを養成し、健康運動としてのノルディック・ウォーキングの効果検証を行いました。その結果、歩数、運動量の増加、体重の減少に加えて、体前屈の改善という体の柔軟性の向上も確認されました。
 運動不足になりがちなこれからの季節、ペース、強度を自分のレベルに合わせて自由に選択することができ、老若男女誰でも気軽に始められるノルディック・ウォーキングを是非あなたの運動レパートリーの一つに取り入れ、健康的な生活に役立ててみて下さい。

■西村一彦(にしむら かずひこ)氏
平成5年より、畜水産食品中の残留有害物質(農薬、有機スズ、動物用医薬品)に関する調査研究に従事。平成14年より、食品中の栄養成分や重金属の分析など、食品安全対策、健康増進に関する調査研究に従事。

 
 

この記事は「しゃりばり」No.297(2006年11月)に掲載されたものです。