健康科学部生活保健科研究員 武内伸治

シラカバ花粉は春とともに
 北海道の冬も以前ほどは厳しく感じなくなってきましたが、それでも春は待ち遠しいものです。ゴールデンウイークが近づく頃には屋外でも過ごしやすくなり、冬の間にはあまりできなかった散策や、草花や野鳥の観察、花見、山菜採り、屋外スポーツなど、さまざまな目的で多くの人が一斉に野山や公園に繰り出します。
 しかし、シラカバはゴールデンウイーク前から6月の初め頃までの期間、花粉を風に乗せて飛散させるのです。シラカバの花粉は直径が1ミリメートルの40分の1前後で、3つの突起(花粉管口)を持つ特徴的な形をしています(図1)。シラカバの花粉を吸い続けると、これまでシラカバ花粉症の症状を示さなかった人でもある年から突然発症する恐れがあります。正確な患者数は把握できていませんが、北海道では最近シラカバ花粉症患者が増えてきていると言われています。シラカバ花粉症は北海道に限られたものと思われがちですが、世界的に見るとヨーロッパ北部やアメリカ北部などでも以前からあるものです。

図1 シラカバの花粉
   
シラカバ花粉症の症状
 花粉症は花粉に含まれる特定の蛋白質が原因で起こるアレルギー疾患で、症状は、目の痒み、鼻水、くしゃみ、鼻詰まりなどです。シラカバ花粉症患者の何割かは果物過敏症を併発し、リンゴ、サクランボ、キウイ、梨、桃、イチゴ、メロン、プラム、柿などを食べると口の中が痒くなったり、重症になると吐いたりすることがあるといわれています。

北海道立衛生研究所の取り組み
 衛生研究所では1996年から空中のシラカバ花粉の観測を開始し、現在では保健所の協力を得て道内主要5都市(札幌、帯広、北見、旭川、函館)で観測を行っています。5都市の中では、シラカバ花粉が最も多く飛散するのが札幌で、旭川、北見、帯広、函館と順に少なくなっていく傾向がありました。なお函館ではスギ花粉も多く飛散するため、スギ花粉の観測も行っています。北海道の主な花粉症は、4月下旬〜6月上旬のシラカバ花粉症、5月下旬〜7月上旬の牧草(イネ科)花粉症、8月下旬〜9月前半のヨモギ花粉症です。上記以外の花粉(イチイ、マツ等)についても札幌では調査を行っています。これらの観測・解析結果は「花粉情報」として当所のホームページ(http://www.iph.pref.hokkaido.jp)で提供しております。

飛散開始日の予測
 花粉症の症状を抑える抗アレルギー薬の中には、花粉が飛散する2週間以上前から服用すると効果を発揮するものもあり、それらの薬で花粉症の症状を抑えるためには花粉の飛散開始日を知ることが重要です。シラカバ花粉の飛散開始日は4月中旬〜5月上旬頃ですが、3月が暖かいと飛散開始が早まる傾向が認められることがわかってきました。3月が例年よりも暖かい年には、早めに抗アレルギー薬を服用する方が良さそうです。

総飛散量の予測
 シラカバの雄花は、花粉を飛散させる前年の夏頃に形成されます。これまでの観測から、花粉飛散量は前年の夏の日照時間や全天日射量に左右される傾向が認められることがわかってきました。それによって、夏の日照時間や全天日射量から翌年のシラカバ花粉の飛散量が大まかに予測できるようになりました。
 本州、四国、九州では、スギ花粉の飛散量予測は、「2004年は少ない」と報道されていますが、残念ながら北海道のシラカバ花粉飛散量は平年より多くなりそうです。シラカバ花粉症の人にとってはつらい春になるかもしれません。
 昨年の天候は異変続きでした。春は気温が高い日が続き、6月からは一転して冷夏になり、秋には気温が上がり、11月3日には札幌で22℃と過去127年間で最も高い気温になりました。花粉の飛散量の予測は気象条件を基に行われます。この「異常気象」が予測にどのような影響を及ぼすか関心のあるところです。
 シラカバの雄花は夏に枝先に2〜4本ずつ形成されますが、落葉後はより確認しやすくなります。北海道立林業試験場が行ったシラカバの雄花数調査の結果は、私たちの気象条件に基づいた予想結果を裏付ける「例年よりも雄花の数が多い」というものでした。また、同試験場ではアレルギーの原因物質が少ないシラカバの開発研究を行っていますので、将来は公園木や街路樹に花粉症の原因になりにくいシラカバが植樹されることが期待されます。

日々の飛散量の予測
 4月の中旬以降は、暖かい日が数日続くと本格的なシラカバ花粉の飛散が始まる可能性が高くなります。シラカバの雄花は、最初は上を向いていますが、花粉の飛散が始まる数日前から大きくなりながら垂れ下がります。そして、シラカバの若葉はその頃顔を出します。そして、最初は閉じている若葉が開いたころに花粉が雄花から放散され始めます(図2)。このことを知っておくと、それぞれのシラカバの木に近づかなくても離れたところから花粉の放散状況を大体判別できるので便利です。シラカバ花粉の飛散量は、気温に連動して大きく変動する傾向があるこ
とがこれまでの観測からわかりました。そのことから、朝の天気予報を見ればその日の花粉飛散量が多いかどうか見当をつけることができます。


   図2 シラカバの雄花と若葉の変化


花粉症の対策
 まず花粉の原因植物に近づかないようにしましょう。そして、晴れた日には花粉が多く飛散する恐れがあるので、外出や布団干しをできるだけ控え、やむをえず外出する際にはメガネやマスクを着用し、花粉が付着しにくい服装を心がけましょう。環境省の保健指導マニュアルによると、通常のマスク及び眼鏡を使用すると、鼻や目に入る花粉量はそれぞれ3分の1、半分近くになるとされ、特に花粉対策用のマスク及び眼鏡を使用すると、それぞれ6分の1、半分以下になるとされていますので活用したいものです。帰宅して家に入るときにはよく花粉を屋外で落として花粉を室内に持ち込まないようにすることが大切です。また、私たちの実験では、住居の吸気口にフィルターを取り付けた部屋は、取り付けなかった部屋に比べ住居内への花粉の侵入が10分の1以下に抑えられましたので、ご自宅でも検討してみてはいかがでしょうか。
 花粉症の根治療法はまだ確立されていませんが、最近は良い薬が開発されてきています。シラカバ花粉症の人でもシラカバ花粉が飛散する数週間前から薬を服用すれば、飛散シーズン中も比較的楽に過ごせることが期待されます。早めに最寄の耳鼻咽喉科などのお医者さんに相談しましよう。
 北海道の風景は清々しい中にも生気があふれ、ほかに代え難い独自の良さがあります。昔から白樺の木はその大切な一員です。より快適に日常生活をおくるために適切な花粉症対策を心がけ、白樺の木との共存を目指しましょう。

武内伸治(たけうちしんじ)
平成8年北海道立衛生研究所勤務。食品科学部食品化学科、生活科学部生活環境科を経て平成14年から現職。
 
 

この記事は「しゃりばり」No.266(2004年4月)に掲載されたものです。