北海道立衛生研究所研究情報科長 中野道晴

感染症の流行
 感染症というとまず思い浮かぶのはインフルエンザでしょうか。毎年冬に流行するインフルエンザの予防対策は、特に小児や高齢者にとって重要な課題です。腸管出血性大腸菌O-157感染症や小さなお子さんのいるご家庭では、手足口病や水痘などといった小児がかかりやすい感染症に注意されていることでしょう。
 昨年の春に中国南部で突然発生し、瞬く間に香港、ベトナムなどの東南アジアやカナダへと流行が拡大した重症急性呼吸器症候群(いわゆるSARS)については、国内においてもその緊急対策が大きな社会問題となりました。また米国では西ナイル熱が東海岸から西海岸へと流行が拡大、さらに今春になってタイやベトナムで高病原性鳥インフルエンザが流行し、鶏から人への感染があったとの報道に不安を感じた方も多いでしよう。

流行を知る
 感染症にかからないためには、まず正しい情報を知ることが肝心です。海外旅行をする際には、予め旅行先の国で現在流行している感染症をインターネットなどを通じて調べ、ワクチン接種などの予防対策をとることが必要とされています。
 国立感染症研究所に設けられた感染症情報センターでは、世界保健機構(WHO)や米国疾病対策センター(CDC)などとも連携し、世界的な感染症の流行状況と全国の感染症発生動向を集計してホームページ(WEB)上に公表しています(http://idsc.nih.go.jp/index-j.html)。昨年のSARS流行にあわせて連日数度にわたり更新されるWHOなどからの情報を刻々と翻訳発信し、医療関係者にも貴重な情報を提供しました。

感染症法による発生動向調査
 全国の感染症情報は、法律に基づいて収集されています。平成11年4月、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」、いわゆる感染症法が施行され、厚生労働省では、感染症の発生動向(流行状況)を都道府県ごとに患者情報として収集・分析し、これらの情報を公表していくこととなりました。昨年10月にはこの法律が一部改正され、SARSや痘そうなどの感染症が追加されました。現在、感染力や罹患した場合の重篤性などに基づいて1類から5類に分類された86の感染症が情報収集の対象となっています。このうち1〜5類の58感染症については、医師が該当患者を診断したときは、最寄りの保健所に届けなければいけません。また5類の残り28感染症については、法律に基づき都道府県が指定する医療機関(定点)がその発生状況を届け出ることとなっています。この届出は、厚生労働省が運用する専用のネットワークシステムを通じて、地域の保健所から国と都道府県に送信されます。国の感染症情報センターでは、この情報を受けて都道府県別に集計したものを公表しています。

北海道の感染症情報
 北海道立衛生研究所内では、平成14年に北海道感染症情報センターを設置し、26道立保健所及び4政令市保健所(札幌市、小樽市、函館市、旭川市)の合計30箇所の保健所管内ごとに感染症発生動向を週単位で集計・分析し、当所のホームページ上に情報を掲載しています
(http://www.iph.pref.hokkaido.jp/kansen/index.html)。

 トップページからその内容を見てみましょう。まず定点から報告されるインフルエンザをはじめとする20の感染症の増減が横棒グラフで表示されています。ここで過去5週間に比べて変化が大きい感染症が分かります。例えば「咽頭結膜熱」をクリックすると、30の保健所名が表示された北海道の地図が出てきます。地名の横には前週からの増減を示す矢印と、その週の定点あたりの患者報告数が表示されます。試しに札幌を選択してみると2004年の第1週からのこの感染症の発生状況のグラフが、全国・全道の状況と過去3年間の動向と併せて表示されます。6月から8月にかけて例年以上に報告の多かった咽頭結膜熱もどうやら9月になって収束を迎えたようです。


 例年、11月の半ば過ぎからはインフルエンザが流行します。流行が始まると各地の保健所管内で次々と上昇力ーブが描かれますので、その発生動向が注目されます。北海道立衛生研究所では、毎年、道内各地で採取された患者の検体からインフルエンザウイルスの検出試験を行っていますが、その結果についてもここに掲載しています。昨シーズンからは、道教育庁が集計した幼稚園から高校までの集団風邪による学級・学年・学校閉鎖情報も掲載しています。



感染症情報を知り、予防する
 医療関係者だけではなく、一般の市民の皆さんが、自分の住む地域の感染症情報としてどの季節にどのような感染症が流行するかをいち早く知ることは、「外出から帰ったときには、うがい・手洗いを」といった実践とともに、流行の被害を少なくする予防対策となります。是非、感染症の情報を時々チェックしてみることをお勧めします。

中野道晴(なかのみちはる)
1981年北大大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。同年より北海道立衛生研究所に勤務。生薬、医薬品の成分や食品中の残留薬品の分析法の開発などに従事。2002年より北海道感染症情報センターを担当、情報システムの構築・運用を行っている。
 
 

この記事は「しゃりばり」No.273(2004年11月)に掲載されたものです。