ドクガって?

・鱗翅目の仲間の昆虫です。
・北海道では南西部の草原に生息しています。
・大発生することがあります。
・幼虫が持っている毒針毛が皮膚炎を起こします。

ドクガは、チョウやガの仲間の鱗翅目(りんしもく。チョウ目とも言います)ドクガ科ドクガ属に属する昆虫です。 学名は、Euproctis subflavaです。 ドクガ科は日本から50種あまりが知られており、そのうちドクガ属(Euproctis属)は10種類ほどです。 ドクガ科の中でも激しい皮膚炎を起こす原因である毒針毛を持っているのは、ドクガ属のガの幼虫だけです(最近、ドクガ属をより細かく分ける考え方もあります)。 北海道で普通に見られるドクガ属には、ドクガのほかにモンシロドクガやキドクガがあります。
ドクガは、北海道から九州にかけての日本と朝鮮半島から中国・シベリア南東部にかけて分布します。 北海道では留萌支庁南部から日高支庁を結ぶ線よりも南西部に分布しています。 これらの地域でも海岸線や平野部の草原や河川敷などを中心に生息しており、森の中にはいません。 しかし、ドクガは時に市街地の空き地や歩道わきの草地に幼虫が大量発生(以下大発生)することがあり、また、ドクガ属の中でも幼虫の持っている毒針毛の数が多いので、最も被害が起きやすい種類です。

成 虫

成虫の標本写真です。左がオスで、右がメスです。オスは翅(はね)の黄色い色が濃く、触角は櫛(くし)状になっています。 メスはオスよりも一回り大きく、特に腹部(ふくぶ)が大きくふくらんでいます。 口は退化(たいか)して機能せず、栄養をとることはできません。 生きているときは、前翅を後翅の上に重ねて屋根型にしてとまっています。

幼 虫

幼虫を側面(そくめん。真横のこと)から見た図です。 幼虫は頭部、胸部、腹部の3つの部分から構成されています。 頭部には目、触角、口があり、糸を出すための吐糸管(としかん)も口の下にあります。 胸部は3節(前胸・中胸・後胸)からなっており、それぞれの節の腹面には1対ずつ胸脚(きょうきゃく)があります。 前胸側部には呼吸のための気門(きもん)があります。腹部は10節からなっており、第3~第6腹節と第10腹節には腹脚(ふくきゃく)と呼ばれるニセの脚があり、枝などに掴まる時に使います(第10腹節の脚は尾脚と呼ぶこともあります。 第1~第8腹節には気門があります。色など細部については「幼虫を知ろう」のページにあります。

蛹(さなぎ)

繭(まゆ)です。幼虫が出した糸で作られており、中には蛹と終齢幼虫の脱皮殻が入っています。 繭は薄い茶色をしており、中の蛹が透けて見えます。食草の上や地面近くに作られます。

ドクガの一生

・卵→幼虫→蛹→成虫と成長します。
・年1化で、幼虫で越冬します。
・幼虫は、小さいうちは集団で生活し、大きくなると単独で生活します。
・幼虫は、小さいうちは主にバラ科植物を食べ、大きくなるといろいろな植物を食べます。
・成虫は夜行性で、餌は食べません。

ドクガは、卵から成虫になるのに1年かかります(年1化または1化性と言います)。 北海道では、卵は8月に500個程の塊として食草に産み付けられます。 食草となるのは、通常はキイチゴ類やハマナスなどのバラ科の低い木です。 卵は、お盆を過ぎた頃に孵化して幼虫になります。
孵化した幼虫は、食草の上で集団を作って生活します。 何度か脱皮をしながら成長し、冬が近くなると食草やその周りの地面に降りて、越冬のための巣を作ります。 その巣の中で長い冬を過ごします。 春、食草の芽が伸び始めると越冬からさめて、再び食草の上に移動して、集団で生活します。 脱皮を繰り返しながら成長し、6月に入ると徐々に集団を解いて最後にはそれぞれの幼虫が単独で生活します。 この頃になると、バラ科だけではなく、オオイタドリやグミなど周りにある植物ならほぼ何でも食べるようになります。 蛹になる前の幼虫(終齢幼虫)になる6月下旬頃には、かなり広い範囲に分散しています。
育ちきった幼虫は、繭(まゆ)を紡いでその中で蛹になります。 繭は食草上や根際に作られることが多いようです。 2週間ほど蛹で過ごした後、成虫になります。
成虫は夜行性で、昼間は葉の下などにとまっています。 灯火に誘引されることもあります。 何も食べたり飲んだりすることなく、幼虫の時に蓄えた栄養で活動します。 メスは臭い(フェロモン)を出してオスに位置を知らせ、交尾し、産卵して一生を終えます。

皮膚炎は、ほとんどが6月の分散期の幼虫によって起こります。 外灯や家の明かりに飛んできた成虫によっても起こりますが、北海道ではあまり多くありません。

ドクガの幼虫

・幼虫は、毛虫です。
・体の色は、小さいうちはオレンジ色で、成長すると黒くなります。
・形や姿が似ている別の種類の幼虫もいます。これらのほとんどは無害です。

ドクガの幼虫は、いわゆる毛虫型で、体には長い毛が生えています。 体の色は黒とオレンジ色の2色で、若齢(じゃくれい:まだ小さい幼虫)の頃はオレンジ色が多く、成長するに従って黒が多くなります。 終齢(しゅうれい:蛹になる前)幼虫になると、ほとんどの部分が黒色になり、オレンジ色の部分はわずかになります。 頭の色は黒一色でツヤがあり、若齢から終齢まで変化しません。
幼虫は、脱皮するたびに大きくなっていきますが、ドクガの場合何回脱皮するかは論文によって様々で12回から18回まで幅があり、育つ環境などによって変化するようです。 ちなみに、鱗翅目昆虫では、アゲハチョウは5回、ウラクロシジミは4回など脱皮回数が決まっている種類もたくさんいます。

幼虫の体色

左は若齢幼虫です。 全体がオレンジ色をしており、胸部第1節・腹部第1及び2節と7節~10節の背面がわずかに黒色を呈します。 このパターンの幼虫は、越冬直後まで見られます。右図は、やや成長した幼虫で、黒の部分が多くなってきます。 オレンジ色は、胸部第2・3節背面、第1・2腹節背面、第3~5節背面中央、及び、胸節・腹節の側面から腹面にかけてとなります。

終齢幼虫の背面(左図)及び側面(右図)です。 ほとんど全体が黒色となり、オレンジ色は胸部背中部と、胸部から腹部にかけての側部(そくぶ)にわずかに残るだけとなっています。 大きさは4センチほどに達します。