ドクガ幼虫発生状況調査

北海道におけるドクガの分布

北海道におけるドクガの分布

左図の赤丸は、過去の調査での現認記録、衛生研究所に保管されている標本、文献の記録等からまとめたドクガの道内記録です。
ドクガの分布は、道内全域ではなく、南西部にかたよっています。 支庁別では、石狩・空知・後志・胆振・日高・留萌・渡島・檜山の8支庁から記録されています。 また、南西部ならどこにでもいるわけではなく、海岸沿いや平野部に分布していることがわかります。

注:伊東ほか(1997: 文献の項目参照のこと)は天売・焼尻島の記録を載せていましたが、現在のところ標本や写真による確認が取れていないため、ここでは記録から除きました。 また、十勝地域などに分布するとの情報もありますが、これも確認されていません。

生息環境

分布のページでわかるように、ドクガは北海道南西部の海岸沿いや平野部に限って分布しています。 分布地域の中でも、海岸草原、河川敷や畑の周りの草地を中心に生息しており、森林内や牧草地には生息していません。 これは次のページにあるように、北海道では小さい時期の幼虫がハマナスやキイチゴ類などのバラ科の低木を好んで食しているためと考えられます。 おそらく、通常雌成虫はこれらの木々に産卵すると思われます(確認はしていません)。 ドクガは、通常はこれらの草地で細々と発生していると考えられます。 すなわち、ドクガの本来の生息地は、海浜性草原や乾性草原であるといえます。

ところが大発生時には、本来の生息地にとどまらず、近くの駅・公園・庭など人の利用頻度が高い場所にも広がり、そこに生えているバラ類でも発生します。 また、生息地に隣接する歩道の脇などでも発生する機会が増加します。 さらに街灯の周りや何らかの原因で密度が非常に高くなった場所では、これらバラ類ばかりではなくオオイタドリやアヤメ類、ツツジ類など他の植物にも産卵するようで、これらの植物に若齢期幼虫集団が見られます。

幼虫の生態

【越冬前:集団期(9~10月)】
8月下旬頃孵化した幼虫は、集団を形成して生活します。 食草上に糸を吐いて巣(台座)を作りその上で休息します。 採食は、台座から離れて集団で行います。食草は、通常の低密度発生状態ではハマナス、ノイバラ、キイチゴ類などバラ科低木に限られますが、高密度の場所では、オオイタドリやツツジなどバラ科以外の植物も食べます。 採食は、10月過ぎに食草の葉が落葉するまで行います。

越冬前の幼虫集団は、草原の中では越冬後に比べて周囲の草丈が高いことから見つけづらいのですが、公園や道路脇では食痕(幼虫が食べた痕)を目印に探すことができます。 右下の写真の集団は、1859個体の幼虫から構成されていましたが、通常は1集団500個体前後です。

【越冬の様子(11月~翌4月)】
10月中旬になると幼虫たちは食べるのをやめ、地面近くに降りてきて越冬のための巣(越冬巣)を作り始めます(左上図)。 巣は草の根元の地面に接して作られます。 越冬巣は幼虫の吐いた糸からできていて、10センチ弱の袋状をしており、1~数カ所の穴があります(右上図)。 その中に幼虫同士が重なるように入っています(左中図、右下図)。 この状態で長い冬を過ごします(右中図~右下図)。

【越冬後の集団期(4月~6月上旬)】
春になり雪が解けて草木の芽が吹く頃、幼虫も越冬から覚めて活動を再開します。 この頃の幼虫集団は、越冬前の状態とほとんど変わりありません。 集団で芽吹いたばかりの柔らかい葉を食しています。 糸を吐きながら移動して採食するので、この部分の葉は糸に包まれて成長できずに萎縮しており、食べた痕も葉脈が筋状に残って変色してよく目立ちます。 草原では周りの草もまだ丈が低いので、食痕を目印にすると比較的容易に探し出すことができます。 幼虫はハマナスやキイチゴ類の葉を食べながら成長し、次第に小さな集団へと分かれていきます。 また、低密度発生域でも、食草は次第にオオイタドリなど色々な物も食べるようになってきます。

【分散期(6月~7月上旬)】
6月に入って幼虫が2センチ以上に成長したころ(ほとんどが亜終齢幼虫の様ですが、正確な確認はしていません。亜終齢とは蛹になる2つ前の齢期のことで、蛹になる前の最後の齢を終齢と言います)には、幼虫は集団を作っておらず、単独で生活しています。 食草は、バラ科のほか、グミ類、オオイタドリ、ヤナギなどほとんど何でも食べています。 移動性も高く、エサが無くなると100メートル以上も移動した例も観察しています。 ドクガ刺傷は、この頃の幼虫によって起こる場合が大部分です。 終齢幼虫は4センチ近くに達し、やがて蛹になります。

【幼虫の天敵】
幼虫の天敵については、北海道ではあまり調べられていません。 飼育をしていると、寄生バエと寄生バチがドクガの幼虫や蛹から出てきます。 このうち、寄生バエの一種であるドクガヤドリバエ1種類のみ同定できました。 一般的に、鱗翅目の幼虫の天敵は、これら寄生性昆虫類のほかに、アリやクモ、捕食性のカメムシや甲虫類、トリやネズミなど様々なものが知られています。 これら捕食性天敵の中で、鳥類やほ乳類はドクガを食べないと考えられています。 野外で幼虫の観察中、幼虫集団のそばに寄生バエや(左図)寄生バチと思われる虫がとまっていたり、アリが集団にまとわりついたりしている(右図:新芽のアブラムシを探しているのかも知れません・・・)のを見たことがありますが、実際に攻撃しているところにはまだ遭遇していません。 そのほか、本州では細菌やウイルスによる病気も知られています。