エキノコックス症について

ヒトへの感染


キツネと野ネズミの間で、エキノコックスの感染が起こっているだけであれば、動物の間の問題ですから、ヒトには何の関係もありません。 ところが、その卵が何かの機会にヒトの口に入ると、野ネズミと同じように幼虫がヒトの体内に寄生することになります。ヒトの口から入った卵は、腸の中で孵化し、血管を通って肝臓や肺、時には脳や骨などに入りこみ、袋の様な幼虫になって増殖を始めます。 これがヒトのエキノコックス症です。ヒトでは幼虫の発育が遅いといわれており、症状がなかなか現れてきません。 ふつうは症状が現れるようになるまでに数年から10数年かかるといわれています。 エキノコックス症にかかっているかどうかを知るためには診断方法の項目に示した様な検査が必要です。 検査によって感染の有無を早く知り、幼虫が大きくならないうちに取り除くことが大切です。

症 状


エキノコックス症は、主に肝臓の病気とされていますので、肝機能障害にともなう疲れやすさ、右わき腹の痛み、黄疸等の症状を現します。 進行は極めて緩慢で、病期は一般に3つの期に分けることができます。 第1期は潜伏期ともいわれ、無症状に数年から10数年経過し、肝機能も正常域にありますが、血清検査でしばしば陽性となり、腹部超音波検査(US)、コンピューター断層法(CT)検査等でも肝臓の病巣を認めることができます。早期発見・早期治療のために、この時期にできるだけ診断することが重要です。 ですから、少なくとも5年に1度は血清検査を受けて、感染していないかを確かめておくことが望まれます。
第2期は進行期ともいわれ、感染後5年から10数年くらい経過した時期になります。 初めのうち、肝機能は正常域ですが、肝腫大に伴う上腹部の膨満・不快感などの不定症状を呈します。 さらに肝腫大が進むと、肝機能障害が現れ、腹部症状の増強、発熱、黄疸等を呈する完成期といわれる時期になります。
病期がさらに進行しますと、全身状態が悪化し、黄疸・腹水・浮腫等を合併し、末期の状態になります。

診断方法


エキノコックス症は肝臓病の1種と言えますが、一般的な肝臓の検査では病気を発見することはできません。 エキノコックスがヒトの体内に入ると、ヒトの体内にエキノコックスに抵抗する抗体という物質が作り出されます。 抗体は血液の中から検出できますので、エキノコックスの幼虫に対する抗体がヒトの血液の中にあるかどうかを調べることによって、エキノコックス症にかかっているかどうかが判定できます。 現在行われている方法として、以下のものがあります。
エライザ法は、免疫学的検査法の1つです。 方法は簡便で、少ない費用で多数の試料を同時に短時間で検査できるため、1次検診の血清検査として使われています。 検査はエキノコックス抗原に被検者の血清を反応させて行われます。判定は、酵素反応を利用して出現する色調から行われます。
ウェスタン・ブロット(WB)法も、血清の免疫学的検査法の1つです。 方法はエライザ法と比べて複雑で、費用もかかりますが、感度と特異性が高いので2次検診の確認試験として使われています。 検査は、電気泳動で多数の抗原成分(無色バンド)に分け、さらに短冊状の紙(ニトロセルロース膜)に転写させたエキノコックス抗原に被検者の血清を反応させて行われます。 判定は、酵素反応を利用して形成される特定の有色バンドの出現により行われます。


感染部位の検査法として、US(超音波検査)、CT(コンピューター断層法)、胸部レントゲン撮影等が有用とされています。 肝臓にエキノコックスの病巣が存在すれば、腹部エコーで低エコー域を認め、CT検査で低吸収域を認めます。 特に、USは短時間で行えるので、スクリーニングにも用いられます。 超音波診断装置の器械を肝臓の部分に当てると、そこから超音波が出て肝臓の様子をテレビ画面に映し出すことができます。 1センチメートル程度の病巣でも見つけることができます。 肝臓のどこの部分に、どのくらいの大きさの病巣があるか、その場で、目で確かめられるのです。 肝臓の様子を写真に撮っておくこともできます。


北海道では、患者の早期発見・早期治療を目的として、行政的にエキノコックス症の健康診断が行われており、地域における住民検診から専門医療機関における治療まで、系統的に実施されています。 最初に各市町村が1次検診を受け持ち、小学3年生以上の希望者を対象に血清検査を実施しています。 次に、1次検診で陽性あるいは疑陽性であった人および健康診断以外で血清検査が陽性または疑陽性であった人、認定患者のうち専門医の指示があった人を対象に、北海道が2次検診を行っています。


2次検診では、1年ごとに医師の診察や超音波診断、血清検査を行い、経過を観察します。1次検診や2次検診の結果異常なしとされた人でも、その後5年以上検査を受けていない人は、再度1次検診の対象となります。
1次検診、2次検診の結果は受診者に伝えられ、エキノコックス症に感染している疑いが非常に強い場合には、医療機関においてさらにいくつかの精密検査を行い、感染が確実であれば、エキノコックスを取り除く手術をします。 その他、家族に感染が起こっていないかどうかもあわせて調査しますし、感染の原因となるようなことが毎日の暮らしの中に起こっていれば、改善するような指導も行います。
当所では、上記のような住民検診のほかにも、医療機関を介して、常時、一般の方からの検査依頼を受け付けています。 北海道内にお住まいの方でエキノコックスの検査を希望される方は、まず、最寄りの市町村または保健所の担当窓口にお問い合わせください。 北海道以外にお住まいの方は、最寄りの医療機関にご相談いただくか、当所感染症部医動物グループまでお問い合わせください。

治療方法


根治するためには、病巣部分を手術で切除する方法しかありませんが、早期に発見し、治療することにより、治癒が可能となります。 しかし、切除が難しい例では薬物療法を用います。 治療薬としてはアルベンダゾールがあり、エキノコックスの成長を阻害し、増殖を抑制する作用があります。

検査のご案内

当所では常時、医療機関を介して、一般の方からの検査依頼を受け付けています。 北海道内にお住まいの方でエキノコックスの検査を希望される方は、まず、最寄りの市町村または保健所の担当窓口にお問い合わせください。 北海道以外にお住まいの方は、最寄りの医療機関にご相談いただくか、当所感染症部医動物グループまでお問い合わせください。
検査依頼をされる際の手続きについて以下に紹介します。

1. 申し込みについて
エキノコックス症血清診断の依頼につきましては、北海道立衛生研究所条例に基づき、所定の手数料に相当する北海道収入証紙(収入印紙ではありません)を貼付した、「試験分析鑑定依頼申請書」にて受け付けております。 貼付の北海道収入証紙には申請者名義の割印を押してください。詳しくは「依頼試験について」をご覧ください。

2. 検体の取り扱いについて
検体は、採血後溶血しないように分離した血清2~3mlを要します。 輸送までに時間がかかるようであれば、低温(4℃)または凍結保存しておいてください。 送付の際には、密封容器を使用し、破損や漏出のないように梱包には充分に注意して、クール便等で送付願います。

3. 検査手数料について
エキノコックス症血清試験として、当所では、簡易なもの(ELISA法)と複雑なもの(ウェスタンブロット法)の2種類を実施しています。 それぞれの検査料につきましては、「依頼試験について」をご覧ください。
北海道収入証紙につきましては、北海道銀行または北洋銀行で購入することができますが、道外にお住まいの方で入手が困難な場合は、当所の企画総務部総務グループ宛に「エキノコックス症検査希望」である旨のメモを添えて、現金書留で検査料をお送りください。
なお、おつりの対応が出来ませんので、くれぐれもおつりを必要としないようにお送りください。