ノロウイルスによる食中毒・感染症胃腸炎

ノロウイルスは、手指や食品等を介して経口感染し、ヒトの小腸内で増殖して胃腸炎を起こします。健康な方は比較的軽症で回復しますが、子供やお年寄りなどでは脱水症状を起こして重症化したり、吐物を誤って気道に詰まらせて死亡することもあります。
感染様式としては、糞便や吐物から手指を介したり飛沫を直接吸い込んでの感染(ヒト-ヒト感染)と、食品を介しての感染(食中毒)に大別されます。 最近の集団胃腸炎の大部分はヒト-ヒト感染によるものです。
ノロウイルスによる感染性胃腸炎や食中毒は冬季に多発しますが、最近では一年を通して発生が確認されています。今回の記事を参考に、予防に心がけてください。

ノロウイルスとは

経口感染により、ヒトに嘔吐や下痢などの胃腸炎症状を引き起こすウイルスです。 ヒトの胃腸炎の原因となるウイルスは他にもたくさんありますが、それらは主に乳幼児から5~6歳くらいの低年齢層に胃腸炎を起こします。 ノロウイルスは、乳幼児からお年寄りまで、幅広い年齢層で感染・発症するため、集団感染を起こしやすく、特に注意が必要です。

「ノロウイルス」という名称は、2002年7月に国際ウイルス命名委員会で決められた新しい名前です。 それまでは電子顕微鏡で観察したときの形態学的な特徴から「小型球形ウイルス(SRSV)」と呼ばれていました。

 Small=小さい
 Round=球形の
 Structured=表面に構造物がある
 Virus=ウイルス

ノロウイルス

症状

ノロウイルスによる胃腸炎の特徴を示します。症状は比較的軽く、予後は良好です。

1. ノロウイルスが口に入ってから発症するまでの時間は、おおむね24~48時間です。
2. 胃がムカムカするような症状の後、突然の嘔吐があり、その後腹痛や下痢を起こします。 ただし、嘔吐のみ、もしくは下痢のみの場合もあり、おおむね低年齢層では嘔吐型をとる傾向にあります。
3. 発熱は37℃程度の微熱で、発熱のない症例も多く見られます。
4. 通常、比較的激しい症状がみられるのは1日程度で、その後胃の不快感等が残ることもありますが、3日くらいで回復します。

ノロウイルス感染では、症状がなくなった後も長期間、糞便中へのウイルスの排泄が続きます。 また、感染しても必ずしも発症するわけではなく、この場合も発症者と同様、糞便中にウイルスを排泄しています。

感染経路

ノロウイルスは、感染者の吐物や糞便中に大量に含まれています。 吐物には1グラム当たり1万~10万個程度、発症初期の患者糞便には1グラム当たり約10億個ものノロウイルスが存在します。 ノロウイルスの感染は、吐物や糞便とともに排泄されたノロウイルスが、直接もしくは手指や食品、水などを介して口に入ることにより起こります。 ノロウイルスの感染力は非常に強く、100個以下という少量の摂取で感染が成立すると考えられています。

ノロウイルス感染経路

1. ヒトからヒトへの感染

保育所・幼稚園・小学校など小児が集団で生活する施設や、福祉施設・病院など介護が必要な施設では、ヒトからヒトへの感染が起こりやすい傾向にあるようです。

(1)保育所・幼稚園・小学校における集団感染
ノロウイルス感染者が教室や廊下で吐いたり下痢をおもらしした時、他の児童がその飛沫を吸い込んだり、汚染場所に触れた指を口に入れたりすることにより、二次感染が容易に起こります。 排泄物の片づけをした職員の手指を介して感染が拡がることもあります。 また、おむつの交換時にしばらくおむつを放置する、交換後に手をよく洗わないなどの行為も、感染拡大の大きな原因となります。

(2)福祉施設・病院における集団感染
介護が必要な施設では、ノロウイルスに感染した入所者の糞便や吐物から、介護者の手指を介して他の入所者に直接伝播する可能性があります。 また、介護者も、排泄物の処理の際に感染することがあります。

(3)その他
その他の集団感染例として、家庭や集会場でのオムツ交換や嘔吐、スポーツ大会会場や食堂での嘔吐が原因と推定された事例がありました。 吐物は、飛沫が周囲に飛び散りやすいことから、感染拡大の原因として特に注意が必要です。

2. 食品を介した感染

(1)調理従事者の手指を介して汚染された食品による食中毒
前述のように、ノロウイルスは感染者の吐物や糞便中に大量に含まれている上、ほんの少量の摂取で感染が成立してしまいます。 そのため、ノロウイルスに感染した調理従事者が排便後よく手を洗わないまま食品に触れることにより、その食品は、食中毒を起こすのに十分な量のノロウイルスに汚染されてしまいます。

(2)二枚貝の生食による食中毒
二枚貝を生もしくは加熱不十分な状態で食べることにより、ノロウイルスに感染することがあります。 といっても、二枚貝の中でノロウイルスが増えているわけではありません。
ノロウイルスはヒトの小腸内で増殖し、吐物や糞便に含まれて排泄されますが、排泄されたノロウイルスが河川を通って海へと流れ込み、海水がノロウイルスに汚染されることがあります。 二枚貝はプランクトンを食べるために毎日大量の海水を吸い込んでいますから、プランクトンとともにノロウイルスが二枚貝の中に取り込まれた場合、中腸腺と呼ばれる臓器に蓄積されることになります。 つまり、二枚貝のノロウイルス汚染は、多くの場合、調理時ではなく生育中の海の中で起こっています。

北海道におけるノロウイルスによる胃腸炎の集団発生

北海道において、平成16~18年に発生したノロウイルスによる集団胃腸炎440事例について、発生施設別に示しました。

施設別集団発生

事例の約9割はヒトからヒトへの感染が原因と考えられたものであり、食中毒は全体の1割程度でした。 発生施設としては、高齢者施設がもっとも多く(35.0%)、続いて医療機関(19.5%)、保育所・幼稚園(14.3%)、社会福祉施設(11.4%)などで発生が多く認められました。 これらの施設における集団感染は、ほとんどがヒト-ヒト感染によると推定されたものでした。 しかし、このように長期間生活をともにするような施設では、ヒト-ヒト感染から食中毒へ、または食中毒からヒト-ヒト感染へと感染様式を変えて感染が拡大していくこともあり、感染症と食中毒の両面に対応するための体制づくりが必要であると考えられます。

予防方法

1. ヒト-ヒト感染の予防

予防の基本は、感染源であるノロウイルス感染者の糞便と吐物を適切に処理することと、手洗いです。
汚染場所の消毒には、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)を使用するか、85℃、1分以上の加熱処理を行います。 逆性石けんや消毒用エタノールでは、ノロウイルスの感染性を完全に失わせることはできませんので、注意してください。

(1)排泄物の基本的な処理方法
1)処理をする人は、使い捨て手袋とマスクを着用する。
2)使い捨てのペーパータオルなどで汚物を静かに取り除く。汚物が飛び散るとその飛沫を吸い込むことにより感染が拡がるので注意する。
3)拭き取った汚物はビニール袋に入れ、0.1%次亜塩素酸ナトリウムを染みこませてから封をして廃棄する。
4)拭き取った後の床を、0.1%次亜塩素酸ナトリウムで浸し拭きする。
5)処理後は、石けんを使って入念に手を洗う。
6)窓を開けて換気を行う。

(2)紙おむつの処理方法
取り替えたおむつやおしりを拭いた後のウェットティッシュは、すぐにビニール袋に入れて封をしましょう。 処理後は速やかに石けんを使って手をよく洗うこと。 ウェットティッシュで手を拭いただけで終わらせることは、やめましょう。

(3)汚染されたリネン類の処理方法
(1)の方法に準じて行います。 まず、付着した汚物を使い捨てペーパーでできるだけ拭き取ります。 その後85℃で1分以上の熱処理を行うか、0.02%次亜塩素酸ナトリウムに10分程度浸して消毒してから、洗濯してください。

(4)施設内の消毒方法
複数のヒトが手を触れる場所(水道の蛇口、流し台、階段や廊下の手すり、ドアノブなど)は、0.02%次亜塩素酸ナトリウムで定期的に消毒を行いましょう。 金属部分を消毒した場合は、10分位してから水拭きしてください。 また、処理後は十分に換気をしましょう。

塩素系消毒液の作り方(市販の塩素系漂白剤(原液の塩素濃度が約5%)を使用する場合)
 ・0.1%次亜塩素酸ナトリウム
  50倍希釈する(例えば、原液10mlを500mlの水で薄める)
 ・0.02%次亜塩素酸ナトリウム
  250倍希釈する(例えば、原液10mlを2.5 l の水で薄める)

(5)手洗いの方法
石けんを泡立て、指先から手首まで、念入りにこすり洗いします(この時、蛇口も一緒に洗いましょう)。 流水で十分にすすいだ後、使い捨てのペーパータオルなどで手を拭きます。タオルの共用は避けましょう。 石けんにはノロウイルスに対する十分な消毒効果はありません。 手に付いたウイルスを「洗い流す」ことが大切です。

(6)施設別の注意点
A.保育所・幼稚園
保育所や幼稚園で集団発生があった場合には、園児の家族への二次感染が高頻度に起こり、さらに二次感染した家族が別の施設での感染源になることがあります。
これを防ぐには、保育所・幼稚園の職員や小さい子供をもつ家族の、衛生管理意識の向上が必要になります。 ノロウイルスに感染した子供の吐物や糞便の中には大量のウイルスが含まれていること、ウイルスが1ヶ月以上糞便中に排泄される場合もあること、感染してウイルスを増やしていても必ずしも発症しないこと、などを念頭においてください。 また、子供の場合は下痢よりも嘔吐を主な症状とする場合が多く、吐物は下痢よりも飛散しやすいため、感染源としてより注意が必要です。
B.小学校
前述のように、子供は嘔吐を主な症状とすることが多いため、小学校内でのノロウイルス感染拡大の予防としては、嘔吐物の適切な処理が最も重要になると考えられます。
教師は児童の健康状態に常に気を配り、症状を示す子供には特に注意してください。 例えば、給食当番をさせない、教室内で吐くことを想定して吐物が飛び散らないための準備をしておく、などの配慮が必要です。
また、トイレの便器まわりの床がノロウイルス感染者の糞便で汚れていた場合、その汚れは、廊下や教室の床まで拡がる可能性があります。 教室や廊下の掃除の際に、手指にノロウイルスが付着することも考えられることから、掃除の後も、子供に十分な手洗いを行わせることが必要です。
C.福祉施設・病院
介護が必要な施設では、介護者を介して、入所者の間でノロウイルス感染が拡がることがあります。 介護職員は、感染を拡げることのないよう、次の人の介護にあたる前に、必ず手をよく洗いましょう
また、胃腸炎患者の発生が認められた場合は、入浴には溜めたお湯を使わず、シャワーのみにした方が良いでしょう。

2. ノロウイルスによる食中毒の予防

細菌性食中毒の予防三原則は、「つけない、増やさない、やっつけろ」ですが、ノロウイルスではどうでしょうか。

1. つけない  → ◎
 (清潔)
少量(100個以下)の摂取で感染するので、つけないことが最も効果的な予防法です。
2. 増やさない → ×
 (冷却)
食品や調理器具上では、ノロウイルスは増えません。また、ノロウイルスは低温の方が感染性が長持ちしますので、冷蔵や冷凍保存はまったく効果がありません。
3. やっつけろ → ○
 (加熱)
効果はもちろんありますが、ノロウイルスは熱や酸に強いため、十分な加熱調理(85℃で1分以上)が行えない料理では、完全にノロウイルスの感染性を失わせることは難しい場合もあります。

以上の点から、ノロウイルスによる食中毒の予防は、「つけない」こと(=二次汚染の防止)が最も有効であると言えます。

(1)食品の二次汚染の防止
食品の汚染源は、ノロウイルス感染者の糞便と吐物です。 また、感染者は必ずしも発症しているとは限りませんので、調理従事者の皆さんは、自分が不顕性感染(感染してウイルスを増やしているが、臨床症状を示さない状態)である可能性も考慮し、以下の対応を、症状の有無に関わらず、常に心がけてください。
1)胃腸炎症状があるときは、調理に従事しない。
2)調理中はマスクを使用する。
3)トイレに行くときは、調理作業着や履物を取り替える。
4)トイレの後だけでなく、食品に触れる前には石けんを使って念入りに手を洗う。エタノール消毒やUV殺菌のみでは不十分である。
5)生野菜は流水でよく洗う。
6)盛りつけ時には、使い捨て手袋を使用する。
7)調理台や流し台、調理器具などは、毎日消毒する(0.02%次亜塩素酸ナトリウムか、85℃で1分以上の熱湯処理)。

(2)食品の十分な加熱調理
食品の中心温度が85℃、1分間以上になるように加熱を行えば、ノロウイルスの感染性を失わせることができます。 二枚貝では、生育中にノロウイルスが蓄積されている場合がありますが、十分に加熱すれば、食べても問題ありません。
特に子供やお年寄り、免疫機能が低下している方は、加熱が必要な食品は中心部までしっかり加熱して食べましょう。 また、酢ではノロウイルスは感染性を失いませんので、ご注意ください。