北海道の温泉

温泉とは

私達が普段利用する「温泉」は、一般的には雨水や雪の一部が地中に浸透して地下水を作り、この地下水がマグマや地熱で温められながら地表に湧き出したもの(「鉱泉」)をいいます。 場所によって地下水が熱せられる度合いが異なるため水温もまちまちですし、その地質に含まれる物質も場所によって違うので、地下水に含まれる成分もまちまちとなり、私達の周りにはいろいろな温度・泉質の温泉が出現するのです。 「鉱泉」とは、源泉(地表に湧き出しているところ)の温度が25℃以上あるか、又は次の表にある物質のうちいずれか一つを含むことが必要です。 そのうち、治療の目的に利用することができるものを「療養泉」といい、温度が25℃以上あるか、又は特定の物質を一定量以上含むことが条件となっています。

鉱泉および療養泉の定義

1.温度(源泉から採取される時の温度) 25℃ 以上
2.物質(下に記載されているもののうちいずれかひとつ)
物質名 鉱泉の規定(kg中) 療養泉の規定(kg中)
溶存物質(ガス性のものを除く)         mg以上
総量 1,000   
        mg以上
総量 1,000   
遊離二酸化炭素 250 1,000
リチウムイオン 1
ストロンチウムイオン 10
バリウムイオン 5
総鉄イオン 10 20
マンガンイオン 10
水素イオン 1 1
臭化物イオン 5
よう化物イオン 1 10
ふっ化物イオン 2
ひ酸水素イオン 1.3
メタ亜ひ酸 1
総硫黄(S) 1 2
メタほう酸 5
メタけい酸 50
炭酸水素ナトリウム 340
ラドン 20×10-10キュリー以上 30×10-10キュリー以上
ラジウム塩(Raとして) 1×10-8 mg以上

                                鉱泉分析法指針(環境省、平成26年改訂)

北海道の主な温泉と泉質

北海道では温泉資源に恵まれ、各地に温泉が確認されています。 当所では、依頼に基づきこれらの源泉の成分を検査しています。

北海道の主な温泉と泉質

北海道には、この他にも多くの温泉地が有り、その数は全部で200を超え、源泉数は約2,000にも及んでいます。 療養泉の泉質は温泉の持つ医治効能を医療、療養等の利用に資するため、温泉に含まれる主要成分や特殊成分と温度に基づいて分類されていますが、例え、泉質は同じでも含まれる各種成分量は各温泉で各々異なっています。 各市町村ではふるさと創生や住民の福祉・健康づくりの一環として、温泉の開発を進め、比較的安い料金で利用できる温泉施設を開業しているところもあります。 各地の温泉に行って、自分に合った温泉を探してみるのも楽しいと思われます。 なお、ここでは泉質名を一般的に解りやすい旧泉質名で表記しています。

温泉の泉質と一般的特徴

現在、温泉の泉質は11種類に大別されていますが、その泉質毎の一般的特徴は次のとおりです。

旧泉質名 特 色 薬理学的作用
単純温泉 泉温が25℃以上で、溶存物質総量(ガス成分を除く)が0.1%未満のもの。多くは無色透明で無味無臭。石鹸は良くとける。日本では食塩泉に次いで多い。 成分の総含量が少なく、体に与える刺激が柔らかく、入り心地が良い。
単純炭酸泉 遊離二酸化炭素を0.1%以上含み、溶存物質総量が0.1%未満のもの。無色澄明でサイダーのような味。冷鉱泉(25℃未満)や低温泉(25℃以上34℃未満)が多い。石鹸は良くとける。 炭酸ガスが皮膚、粘膜などの毛細管を拡張し、血液の循環を良くする。血圧の降下作用が大きく「心臓の湯」とも呼ばれている。飲用は胃腸疾患や便秘に効果がある。
重炭酸土類泉 溶存物質総量を0.1%以上含み、陰イオンとして炭酸水素イオンを、陽イオンとしてカルシウム、マグネシウムイオンを主成分とする。無色澄明。石鹸は泡立たない。 沈静作用があり、アレルギー性疾患、慢性皮膚炎、じんま疹などに良いとされ、飲用は利尿作用があり、尿管結石、膀胱炎、痛風などに良いとされる。また、慢性胃腸炎にも効果がある。
重曹泉 溶存物質総量を0.1%以上含み、陰イオンとして炭酸水素イオンを、陽イオンとしてナトリウムイオンを主成分とする。無色澄明。石鹸は良くとける。 皮膚の角質層を軟化し、分泌物を乳化する作用があり、「美人の湯」とも呼ばれる。皮膚病、切り傷、やけどに良いとされ、飲用は胃酸を中和することから、慢性胃炎や胃酸過多に効果がある。
食塩泉 溶存物質総量を0.1%以上含み、陰イオンとして塩化物イオンを、陽イオンとしてナトリウムイオンを主成分とする。カン味を有し、日本の温泉では最も多い。石鹸は泡立たない。 保温効果が強く、「熱の湯」とも呼ばれている。神経痛、腰痛、冷え症などに効果がある。飲用は胃腸の働きを活発にして、胃腸疾患、便秘などに効果がある。
硫酸塩泉 溶存物質総量を0.1%以上含み、陰イオンとして硫酸イオンを、陽イオンとしてナトリウム(芒硝泉)、カルシウム(石膏泉)、マグネシウム(正苦味泉)を主成分とする。無色澄明。正苦味泉は、苦味がある。石鹸は芒硝泉以外あまり泡立たない。 正苦味泉:高血圧症の血圧を下げ、動脈硬化を予防する。日本では少ない。
芒硝泉:浴用では高血圧症、外傷、動脈硬化症に効き、飲用すると胆汁の分泌が促進され、肝臓病、糖尿病、痛風に効果がある。
石膏泉:鎮静作用があるため、切り傷、やけど、打ち身、痔に良く、高血圧症にも良いとされる。飲用は痛風やじんま疹に効果がある。
鉄泉 鉄イオンを20mg/kg以上含み、炭酸水素イオンと結合したのが炭酸鉄泉で赤茶色、硫酸イオンと結合したのが緑ばん泉で強酸性を示し、銅、マンガン、ヒ素などを含むことが多い。 ともに良く温まり、貧血症、慢性湿疹などに良いとされる。
明ばん泉 主成分はアルミニウムイオンと硫酸イオンである。 皮膚や粘膜を引き締め、慢性の皮膚疾患や粘膜の炎症、水虫、じんま疹などに効果がある。
硫黄泉 硫黄を2mg/kg以上含み、ゆで卵の腐ったような独特の臭いがする。石鹸の泡立ちは悪い。 良く温まり、毛細血管や冠状動脈を拡張させる作用があるため、動脈硬化症、慢性気管支炎、しもやけなどに良いとされる。また、解毒作用も強く、慢性皮膚病などに良いとされる。その他、糖尿病、便秘などにも効果があり、応用範囲が広い。一方、浴用・飲用とも刺激が強いので、皮膚の弱い人、高齢や病弱者は注意を要する。
酸性泉 水素イオンを1mg/kg以上含み、塩酸、硫酸、ケイ酸などを多量に有する。 殺菌力が強く、湿疹などに良いとされるが、皮膚の弱い人は真水で洗い流す。
放射能泉 ラドンを100億分の30キュリー以上含む。比較的冷泉が多い。 神経痛、自立神経失調症などに良いとされ、飲用では痛風にも良いとされる。

温泉は変化する?

温泉は地下水の量や地殻変動などにより、湧出量や泉温、成分含量や組成が変化する可能性があり、泉質の変化は医治効能にも影響を及ぼします。従って、道では10年に1度程度の温泉再分析をするように指導しています。
当所では、平成12年3月末からの有珠山噴火の後、その周辺温泉の源泉の成分に変化がないかを調査しました。その結果、噴火前と比べ、洞爺湖温泉の泉温、主成分であるナトリウム、カリウム、カルシウム、塩化物および硫酸や微量成分の水銀濃度は明らかに上昇する傾向が見られました。
これらは噴火活動に伴う地下からのマグマの上昇や地震による周辺の地殻変動が温泉水を形成する地下水脈に何らかの物理的、科学的変化を誘発したためと考えられます。