エキノコックスについて

エキノコックスの生活サイクル

エキノコックスという寄生虫には、卵、幼虫、親虫の3つの発育段階があります。 親虫のときはキツネやイヌの体内に、幼虫のときは野ネズミの体内に寄生して生活しています。 卵は親虫から産み出され、キツネやイヌの糞とともに出てきます。

宿主となる動物

キツネ

エキノコックスの親虫は、キツネやイヌの小腸に寄生していて、体長は4ミリメートルくらいです。 その身体は、4個から5個の部分がつながってできています。身体の一番最後の部分(写真では右上)に卵ができ、成熟するとその部分がはずれて、キツネの糞とともに外に出されます。


虫 卵

キツネの糞にまじって外に出た卵は、肉眼では見えない程小さなものです。 大きさは、直径0.03ミリメートルで、球形をしています。 この卵がヒトの口から入ってエキノコックス症を引き起こすのです。 この卵は強い抵抗性をもっており、マイナス10度や20度くらいの低温では死にません。 しかし、熱には弱く、煮沸すれば確実にこの卵を殺すことができます。 また、乾燥にも弱いことがわかっています。


ネズミ

野山にはたくさんの野ネズミがいます。 キツネの糞とともに野外に出されたエキノコックスの卵は、餌などと一緒に野ネズミの口に入ると、腸で孵化して、門脈を通って肝臓にたどり着き、そこで幼虫として増殖を始めます。 エキノコックスの幼虫は、親虫とは似ても似つかぬ袋の様な形をしています。 これらの袋の中には、親虫のもととなる原頭節がたくさん作り出されます。 エキノコックスの幼虫は、野ネズミの身体の中では幼虫のままで増殖を続けます。 そして、このような野ネズミをキツネが食べると、キツネの腸の中で原頭節が親虫にまで成長し、卵を生み出すようになるのです。


エキノコックスが寄生する動物を宿主(または宿主動物)と言います。 そして、親虫が寄生する動物を終宿主、幼虫が寄生する動物を中間宿主と呼んで区別しています。 そして、これら宿主の中には、エキノコックスが充分に発育する種類(好適宿主)と、寄生はするもののエキノコックスの発育が悪い種類(非好適宿主)があります。


上の図は、北海道でこれまでにエキノコックスの寄生が確認された主な動物のリストです。 このように、エキノコックスは、キツネやイヌ、野ネズミ以外の動物にも寄生することがあります。
小腸に多数の親虫を宿し、糞からエキノコックスの卵を排出する好適な終宿主動物としては、キツネとイヌがいます。 これらの動物は、エキノコックスに感染すると多数の卵を排出するため、充分に気をつけなければいけません。 これに対して、ネコとタヌキは、親虫は寄生するものの発育が悪く、エキノコックスにとっては非好適な宿主と考えられています。
一方、肝臓などに幼虫が寄生する中間宿主動物として重要なのは、エゾヤチネズミなどの野ネズミ類です。 野ネズミの肝臓に寄生したエキノコックスの幼虫はよく増殖し、親虫のもとになる原頭節がたくさん作られます。 ですから、エゾヤチネズミなどの野ネズミはエキノコックスにとって好適な宿主です。
ヒトやブタ、ウマもネズミと同じようにエキノコックスの幼虫が寄生するグループに属します。 しかし、ネズミの場合と違って幼虫の発育は悪く、エキノコックスにとって好適な動物ではありません。
中間宿主であるネズミ類やブタ、そしてヒトなどの体内ではエキノコックスは幼虫のままでとどまり、親虫になることはありません。 したがって、卵を作ることもないので、ヒトやこれらの動物からヒトへ感染することはありません。

エキノコックスの流行状況


エキノコックス症(多包虫症)は、世界の中では主に北半球で発生しており、日本では北海道を中心とする北日本で確認されています。
1964年以前は、北海道でエキノコックスの分布が知られていたのは道北の礼文島だけでした。 その後、1965年に道東の根室市で新たにエキノコックス症患者が確認され、その後の動物の調査などで、道東の10市町村にエキノコックスが分布していることが分かりました。 また、1983年以降は道内各地で新たな分布地域が確認され、現在ではエキノコックスは全道一円に分布しています。


北海道では昭和41年からキツネのエキノコックス感染率を調査しています。 キツネの感染率は年によって変化していますが、平成4年までは全道平均で高い年でも20%台でした。 ところが、その後感染率は増加し、平成10年には過去最高の57.5%を記録しました。 このように、近年、キツネのエキノコックス感染率の高まりが認められています。